
タルボ干渉計による非破壊イメージング
X線位相コントラストイメージングによって得られる画像
透過型の回折格子を複数用いるX線タルボ干渉計,タルボ・ロー干渉計によって生じるモアレ縞の変化を記録・処理することで,通常のレントゲン写真で用いられるX線吸収像に加え,低吸収物質に対しても高感度な位相コントラスを用いた微分位相像,モアレ縞の不鮮明化を利用した小角散乱像(暗視野像)が取得できます。
下の画像例は同一のサンプルを同一時に撮像したものですが,異なるモダリディ(吸収コントラスト,微分位相コントラスト)によって,各々得られている情報が大幅に異なるのがわかります。吸収像ではパーツ内部の金属が見えているのに対し,位相コントラスト像ではプラスチック素子表面の微小な凹みや亀裂が認識できています。このような特徴を活かし,X線タルボ干渉計,タルボ・ロー干渉計は,非破壊検査装置への応用に向け研究が進められています。
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吸収コントラスト像 |
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微分位相コントラスト像 |
下の画像例は微分位相像と小角散乱像(暗視野像)です。この手法による撮像は,肺のような組織の構造や密度変化に対して非常に感度が高く,これまでのX線吸収像では見逃していたような肺疾患を特定することが可能になると考えられています。現在,胸部や肺の医療診断用装置の実用化に向け,研究開発が行われています。
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微分位相コントラスト像 |
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小角散乱像(暗視野像) |
お手持ちのサンプルの撮像や,タルボ・ロー干渉計セットアップの導入,あるいは回折格子の製造に関する御相談・お問い合わせを受け付けております。
回折格子を用いたX線位相コントラストイメージング: タルボ干渉計
位相格子G1を通ったコヒーレントX線は,一定距離(タルボ距離)離れた地点に自己像を形成します。その自己像と吸収格子G2の格子との重ね合わせを,モアレ縞として検出器で検出することで位相像を取得します。また,試料の透過によりビジビリティに変化が生じ,その低下情報からコントラストを計測することで,小角散乱像(暗視野像)を取得できます。
タルボ干渉計のセットアップに加えて線源格子G0を導入することで通常のX線管にてコヒーレントなX線が得られ,タルボ・ロー干渉計が構成できます。
タルボ・ロー干渉計システム(TALINT) セットアップ例
microworksの提案しているタルボ・ロー干渉計の例です。
Talint-EDU | Option 1 | Option 2 |
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エネルギー | 40 keV | 20.8 keV |
タルボ次数 | 1 | 3 |
FOV | 直径70 mm | 直径70 mm |
位相ステッピングビジビリティ | > 20% | > 20% |
全長 | 600 mm | 600 mm |
G0-G1間隔 | 290 mm | 290 mm |
G1-G2間隔 | 290 mm | 290 mm |
G0,G2の吸収体厚さ (金) | > 120 µm | > 40 µm |
p0 (G0周期),p2 (G2周期) | 6.0 µm | 4.8 µm |
p1 (G1周期) | 6.0 µm | 4.8 µm |
角感度 (p2/(G1-G2)) | 21 µrad | 17 µrad |
G0,G2基板 | グラファイト400 µm | グラファイト400 µm |
G1基板 | Si 200 µm | Si 200 µm |
X線回折格子
カールスルーエ技術研究所(KIT)・IMTとスピンオフ企業のmicroworks GmbHは,X線タルボ・ロー干渉計で使用される高アスペクト比,高精度の回折格子を開発し提供しています。
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高アスペクト比の吸収格子 |
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湾曲型の吸収格子 |
回折格子構造例
X線回折格子は,X線マスクをレジスト上に転写して,構造化したレジストの隙間に電鋳を施すことで製造します。御希望の周期を持つマスクの作製と,既存のマスクレイアウトからの格子製造の,双方を御提案可能です。
格子の種類 | 吸収格子 | 位相格子 |
---|---|---|
金属構造体の厚み例 | 250 μm | 4 μm |
周期 (metal + space)の例 | 4.8 μm | 3.57 μm |
材質 | Au | Ni |
標準品の仕様
特別な開発を必要としない仕様の例
構造体材質 | Au, Niまたはポリマーレジスト |
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基板 |
標準: Siウェハ (標準: 200 μmあるいは550 μm) オプション: グラファイトやポリイミド等の低吸収体 |
構造面積 |
標準: 直径70 mm オプション: 直径100-140 mm, つなぎ合わせによる面積の拡張も応相談 |
開発品1: 大面積のX線回折格子
microworksは,肺や胸部の大視野X線暗視野撮像向けに,大面積の吸収格子を製造しています。
microworks製造の大面積X線回折格子。肺のX線暗視撮像の開発と臨床試験に利用される胸部サイズ。従来の胸部X線に匹敵する放射線量でCOVID-19を含む肺病変のX線診断を大幅に改善することが見込まれる。
格子窓のサイズは350 mm x 30 mm (上),400 mm x 30 mm (下)で,いずれも3枚の回折格子をタイル状に配列したもの。
大面積の回折格子: 仕様例
格子の種類 | 単品の大面積回折格子 | タイル状に複数配列した回折格子 |
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回折格子部分の面積 | 200 mm x 100 mm | 400 mm x 30 mm等 |
回折格子周期 | 7.0-10.0 μm | 応相談 |
吸収体の高さ(金) | 最大200-250 μm程度 | 最大200-250 μm程度 |
基板材質 | Si | Si |
開発品2: 狭い周期の回折格子
非常に狭い周期の回折格子の実用化を目指しています。1.0~2.0 μm の周期が,限られた面積内で実現しています。
![]() 線幅0.5 µmの回折格子例 |
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リング形 線幅約1.0 µmの回折格子 |
格子の種類 | 位相格子 18 keV,π/2 |
位相格子 26 keV,π/2 |
吸収格子 |
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周期 | 2.0 μm | 1.0 μm | 1.4 μm |
材質 | Ni | Au | Au |
構造高さ | 3.2 μm | Up to 5 μm | > 20 μm |
格子構造面積 | 10 mm x 10 mm | 5 mm x 5 mm | 20 mm x 20 mm |
基板材質 | ポリイミド | Si 200 μm | ポリイミド他 |
構造デザイン | 連続線 | ブリッジ | ブリッジ |
製造者と実績
カールスルーエ技術研究所(KIT)・IMTとmicroworks GmbHは,X線リソグラフィを用いた高アスペクト比の樹脂構造と電鋳構造の研究開発の第一人者です。お客様のお求めにより,御希望の撮像環境に対応した回折格子を製造,提案しております。X線回折格子の使用実績については,Publication list を御覧ください。
また,お手持ちのサンプルの撮像や,タルボ・ロー干渉計セットアップの導入,あるいは回折格子の製造に関する御相談・お問い合わせを受け付けております。株式会社ASICONまで御連絡ください。
タルボ干渉計撮像実験
X線回折格子をタルボ干渉計にて用い,株式会社ASICONがサンプル撮像実験や回折格子の評価実験を実施しました。
東北大学多元物質科学研究所 百生研究室
件名: サンプル撮像によるカールスルーエ技術研究所製造X線回折格子の評価
高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリー
件名: 放射光施設におけるタルボ干渉計用回折格子の性能評価手法の研究
X-ray optics and micro fabrication
[KIT/IMT and microworks GmbH]
Talbot-Lau interferometry kit, TALINT
Compound refractive lenses, CRL
Microfabrication process, LIGA
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